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ひとりで静かに満足して旅立つためにしておくべき最小限の準備

相続と遺言。いずれも人生の最後に訪れるイベントです。それは、自分の人生のうちこの世に残るものをどう処分するか、という最終決断です。

ですが、いまの時代、すべての被相続人に家族がいるわけではありません。少子高齢化社会によって、たとえば90歳まで生きたときに、自分の配偶者も子もすべて先立たれる可能性は、みなさんが思うほど低くはないでしょう。老人の孤独死は、一時話題になりましたが、いまではもう話題にもなりません。それだけ「当たり前」になってしまったのです。

好きで孤独になる人もいます。どういうわけか気づいたら孤独、ということもあります。いずれにせよ、生きている間になにかしておかなければ、自分の後始末を誰かに押しつけることになってしまいます。

私たちは、ちょっと文学的な表現でいえば、基本的には生まれながらにして孤独なのです。ひとりで生きていき、ひとりで死ぬ。それもあり得る人生です。ステレオタイプな日曜日の夕方のアニメのような家族ばかりが家族ではありません。

こうなると現実として自分の死をしっかり演出しておかなければなりません。その時が来た時に、もはや判断力、認知ができない状態にあるかもしれませんから、できれば「まだ自分は若い」と感じている間に、手を打っておきましょう。

公正証書遺言によって、自分の意思をハッキリさせておくことを第一にします。遺言をつくることで、さまざまなことが想起され、決断を迫られます。「死ぬ時のことなんてわかるわけがないじゃないか」とおっしゃるなら、「いますぐ死んだ場合」を考えてみてください。

「財産なんてないよ」と言いつつも、ちょっとしたコレクションをどうするか。自分が大切にしてきたものをどうするか。少しでも寄付できるところはないか。誰かに引き継いでもらえないか。それを考えてみてください。決断できるのは生前のあなただけです。

遺贈という言葉があります。遺言によって、人や法人に遺言者の財産を無償で譲ることです。この場合の無償とは、一定の負担は要求できますが、対価性はないこと。「飼い猫の面倒を見ることを条件に」といった要求はできますが、「100万円で」といった要求はダメということです。

遺贈は、受ける側の反応しだいでどう実行されるか不確定なことは承知しておいてください。断られたら貰ってくれません。また遺贈で指定した人が亡くなっていたら、その相続人の判断しだいで断られることもあります。

この点では贈りたい相手の気持ちも生前に確認しておきたいものです。死者からのプレゼントはけっこう重たいものです。その負担に耐えてもらえるかどうか。まして親子でもない相手に。このあたりは身勝手に突き進まないようにしたいものです。

ある経営者は毎年誕生日に遺言を書いているそうです。遺言は最新の日付のものが有効です。事情も考え方も変わります。それがその人にとっての責任の果たし方だそうです。

みなさんも、元気なうちにこそ、遺言と相続を真剣に考えましょう。

親の築いた事業を子が相続したくないという場合には売却できる?

ここまで相続と遺言についてのいろいろな話をしておきながら、現実には「相続したくない」という選択肢があることを忘れてはいけません。

なんとか相続させたい、できるだけ低コストで相続させたい、財産を減らさずに残したいという声の一方、「相続はいりません、したくありません」という声もまた、尊重しなければトラブルのもとになります。

いわゆる相続放棄です。これはほかの相続人に「私はいりません」とか、「私はこれだけで、あとはいりません」と言えばいい、というわけではありません。相続といういわば権利は、相続が発生(被相続人が亡くなった時点)で自動的に発生しています。その死を知らなかったとしても、法律的には相続人になっているのです。

これを、たとえばまだ被相続人が生きている間に放棄することはできません。また、兄弟間などで、相続発生前に約束を取り交わしたとしても、それは違法で無効です。もし他の相続人に脅迫などで放棄を迫ったりすれば、そういうことをした本人が相続の対象から外される恐れが出ます。

ということで、相続の放棄は、あくまでも相続が発生してから、家庭裁判所に対して「申述」します。それだけでOKです。ただし相続の開始を知ったときから3か月以内にすること。相続放棄の申述書などの書類と収入印紙800円が必要です。どのような書類が必要かは家庭裁判所のサイトに詳しく出ています。

また、このとき、どの家庭裁判所に届けるか、ですが、基本的には被相続人が最後にいた住所地の家庭裁判所です。この管轄も家庭裁判所のサイトで検索ができます。

ただし相続を放棄した場合、それを取り消すことはできません。放棄したあとに新たな事情(別の財産が出てくるなど)があったとしても、取り消せませんので注意してください。

こうして、相続人全員が放棄してしまったときには、相続人が不存在として扱います。相続財産管理人が選任されて、裁判所の許可の下で財産を処分します。たとえば借金があればその返済をしたり、最後まで看病をしたといった特別縁故者がもし財産分与請求してきたときにその対応をして、最終的に余った財産は国庫に納めます。

一代で築いた事業があり、誰も相続しようという人がいないときには、人手に渡ってしまうでしょう。たとえば故人の株券を現経営者が引き取るといった方法で事実上、会社の所有が代わってしまうわけです。

もしそうしたくないのなら、相続人がいないときには、生前に事業を売却しておく、または事業が承継されるように手を打っておく必要があります。そのために銀行や会計士、税理士、コンサルタントなどが対応しています。

たとえば日本M&Aセンターのような事業の売却先の仲介をしてくれる会社もあります。日本の企業のほとんどが中小企業ですが、だからといって買い手がいないわけではないのです。

相続人が「親に言われて仕方なく事業を相続したが、とてもじゃないけど、自分には経営なんてできない」とあとになって売り出すこともあります。

こうした事態でもめないためには、生前に事業内容をしっかり整理し、売りやすい会社にしておく必要もあります。これも一つの経営責任だと言えます。

再婚した連れ子の相続でもめる場合とスムーズに相続できる場

養子も子として相続人になれます。実子と養子の区別はありません。ところが、再婚時にきちんと養子の手続をしていない場合は、再婚相手の子とはいえ、相続人にはなれません。この差は天と地ほどの差があります。

ちょっと複雑な話になりますが、世の中ではとてもよくあることなので、しばらくお付き合いください。

夫Aさんは、前妻との間に2人の子がいます。この2人は前妻のところにいます。再婚した妻Bさんも2人の子がいます。前夫との間の子です。

この場合、法律的に4人の子どもの立場がどうなるのかといえば、Aさんの子2人は、前妻に親権があって別の生活をしていても、Aさんの実子(嫡出子)であることは間違いないので、法律的にAさんが亡くなった場合の相続人となります。でも、Aさんの妻Bさんの子ではないので、Bさんが亡くなった場合の相続人にはなりません。

同様に、Bさんの子2人は、Bさんの前の夫の実子(嫡出子)です。ですから前夫が死亡したときの相続人ですが、Aさんの相続人にはなれません。

このとき、考え方はいろいろあります。このままでもいい場合もあるでしょう。それをBさんの前夫が望んでいるのなら、そういうことも排除する必要はないと思います。

でも、もしAさんの相続人にBさんの2人の子をしたいのなら、Aさんの養子にする手続が必要となります。そしてBさんの相続人にしたいのなら、Aさんの子をBさんの養子にする必要があります。お互いの子をお互いの養子にすると、法律上、親子として機能することになります。

養子には、特別養子縁組と普通養子縁組があります。特別養子縁組は、たとえば事情があって完全に養子先の子として育てる場合に、実親との関係を断ちきるものです。こうしなければ、あとで実親が出てきて、取り戻そうとするなど、子どもにも養子先にもトラブルが起こりやすいために、こうした制度があります。家庭裁判所に養子縁組の審判を請求して手続を進めることになりますが、原則としてこの時点で、6歳未満(0歳~5歳)の子であることとなっています。

一方、普通養子縁組。これは原則、当事者の意思で自由に縁組できます。養子が未成年者のときは、養子が自分自身や配偶者の孫や配偶者の連れ子など直系卑属でない限り、家庭裁判所の許可が必要となります。つまり、AさんBさんの場合は、役所で養子縁組の手続をすれば、OKです。

また普通養子縁組の子は、養子によって得た親と元々の自分の親の両方がいます。どちらの相続人にもなれます。

この養子縁組による相続は、現在の法律で婚姻が認められていない同性愛のカップルでも有効です。パートナーを子にするわけです。

また、養子縁組が事情によって不可能なときは、遺言によって相続人に指定することができます。法定相続人には遺留分があるので、遺言だけでその人に全財産を渡すことは難しいものの、たとえば法定相続人がいない(いても兄弟姉妹ぐらい)といった場合なども、遺言で相続人を指定することは、とても有効で、わかりやすい相続が期待できます。

オヤジがすごく若い嫁さんと突然結婚して間もなく他界したケース

「悔しいんですよ」とJさんが訴えてきました。Jさんの父親は闘病中に離婚。病院で知り合ったらしい若い女性と再婚しました。

そのおかげもあってか、一時は退院をして自宅療養までできるほどになったのですが、再発して再入院。その後、帰らぬ人となってしまいました。

Jさんの母親とは30年暮らし、最初の闘病時にも献身的に尽くしたのです。それが、離婚によって肩の荷は下りたものの、わずか1年半ほどしか結婚していない若い女性が、家からなにからすべてを自分の名義に書き換えていたのです。

離婚しているのでJさんの母親は相続人にはなりませんが、Jさんら兄弟は被相続人の実子なので、子として相続ができます。ところが、主要な財産であった家屋と土地は彼女名義になっており、「相続財産ではない」と主張しているのです。

土地と家を除けば、遺された財産はわずかで、中古のクルマを処分したり、株券を処分しても数百万円にしかなりません。入院していた関係で借金も残っていましたので、相殺すると各人に10万円ほどしか残りません。

「なんか、理不尽ですよね!」とJさんは言いますが、正式に離婚し、再婚しているのでこの点についてはどうにもなりません。あとは、生前に妻名義にしている土地家屋。これが主要な財産であることは間違いありませんが、若い妻の主張によると「多額の借金の返済をしたから」と言うのです。

調べてみると、父親はそれまでに負った1000万円近い借り入れを、彼女に返済してもらっていました。そのうちの500万円は離婚時の慰謝料だったようです。

こうなると、あえてもめて事を荒立てるのもどうか、という気になってくるものです。もし、生前に一度でも父親と会う機会があり、Jさんが事情をちゃんと聞いていれば、妙に母親の肩を持って憤る必要もなかったかもしれません。

父親には説明するチャンスがありました。一時的には回復して自宅療養していたのですから、その時にでも、面倒でも子たちと話をしておくべきだったでしょう。

この件には後日談があり、父親が入っていた生命保険の受取人は、Jさんの母親だったので、保険金を受け取ることができたそうです。おそらく、彼なりにバランスを考えて、保険の名義は離婚後もそのままにしておいた可能性があります。

「どうしますか? 法廷で争いますか?」という弁護士の言葉に、Jさんは最終的にもめ事は避ける決断をしました。

それにしても、こうしたことは、できれば生前にきちんと話しておくか、遺言によって明らかになるのようにしておいた方がいいでしょう。

まして大病のある人はいつ亡くなるかわからないわけですから、責任をまっとうするためにも生前の手続をきちんとやっておきたいものです。

国際結婚している人の相続ってどうなっちゃうのかと心配な人へ

国際結婚をしている人にとって相続が発生したらどうなるのかと思っている人も多いかもしれません。まず、この原則だけは覚えておいてください。相続は被相続人の本国の法律に従います。被相続人、つまり亡くなった人です。その人の国籍がどこにあるかによって、その国の相続に関する法律が適用されます。

相続は貰う側(相続人)の都合ではなく、あくまで遺す側、被相続人の意思なのです。このため、どの法律を使うかは、被相続人の国籍しだいということになります。

たとえば、被相続人は生前にフィリピンの女性と浮気をし、それが原因で離婚。日本に子がいましたが、その後、浮気相手のフィリピン人女性と再婚し、その間にも子を設けました。

こうして亡くなってしまうと、誰がどのような相続になるのか、というのが気になるところです。この場合、被相続人は日本国籍なので日本に住んでいますから、日本の法律に基づいて相続をすることになります。

別れた最初の妻には相続の権利はありません。しかしその間に生まれている子は直系親族なので相続人です。またフィリピン人女性は配偶者なので当然に相続人となり、その間の子も相続人となります。

ただし、もし被相続人だけたとえば日本で入院していて、フィリピン人の妻と子がフィリピンにいるような場合は、きちんと話をしなければならない手間がかかりますね。「法律でこうだから」と言えば終わる話ではないでしょう。

では、被相続人もフィリピンに行ってしまった場合はどうか。こうなるとフィリピンの法律によって相続をすることになってしまうことになりかねません。日本とフィリピンの両方に財産が残っている場合などは、かなり面倒なことになるでしょう。

国際結婚をしたとき、そしてどこに居住するかによっては、現地の法律にも詳しくならなくてはなりませんし、自身が万が一、事故などで急逝することも含めて事前に考えて手を打っておくべきです。

相続人の相続税は、相続人の本国で課税されます。たとえば、米国人の夫と日本人の妻、その子という組み合わせで、米国に住んでいたとき、夫が急逝したとします。このとき、相続は米国の法律に従って手続きされていきます。が、日本人妻がつい最近まで日本に居住していて日本にまだ住居もあるなら、日本で課税されます。たとえ外国籍でも日本に住居があるときは日本で課税されるのです。

このように、原則がわかっていても、実際にはかなり複雑になってしまうのが国際結婚による相続なのですから、より慎重に調べて、生きている間に遺族が迷わないようにしておきたいものです。

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