Month1月 2014

陥りやすい失敗例から知る問題が大きくならない生前贈与の方法

現金を複数の人で分けるのは簡単ですが、土地を分けるときにはいろいろ注意しなければなりません。

節税対策のためだけに自分の土地を生前贈与するときにある人の失敗例がとても参考になります。

Fさんは自宅に隣接して広い土地を持っていました。かつて商売をしており、使用人の部屋まで設けていたのです。事業は清算して久しく一部を駐車場としているぐらいですが、これを4人の子とその孫6人がいますので、毎年、無税で贈与できる範囲で段階的に10人の名義に移していきました。

1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。年数はかかりますが、こうやって土地を贈与していったけっか、数年後にFさんが亡くなるまでに贈与はすんでおり、この土地に関する相続税はゼロでした。みごとな節税です。

しかし、あまりにも急いだせいもあって、子と孫の人数と、その不公平感のないように分割することばかりに気を取られてしまい、事後のことをまったく考えていませんでした。

このためFさんが死亡したのち、この土地をどうするのかについて子たちの間でかなりもめてしまいました。共有なので、貸したり、売却するには全員の同意が必要になります。自分の持ち分だけを勝手に担保に入れてお金を借りることもできません。

「せっかく貰ったのに使えない!」というわけです。とくに子の一人は女性で結婚して遠方にいるため「持っていてもしょうがない」と他の兄弟に買い取ってもらうことを願っていましたが、長男は自分の事業がうまく行かずすでに借金が増えていることもあって、とても買い取れる状況ではありませんでした。

話し合いの結果、専門家に相談して土地を分割し、共同所有ではなくそれぞれの持ち分があるように切り分けるために、大変な手続と費用がかかってしまったそうです。また、子たちの話し合いもしだいに険悪になって、一時は「口も聞きたくない」と感情的な対立になってしまいました。

この場合、土地はほぼ空き地なのでまだしもですが、これが事業承継にも関係したとしたらさらに話はややこしくなります。たとえばこのとき子の1人がその場所で商売をしている、といったケースです。

よかれと思って遂行した生前贈与が、このように死後に問題になるようでは困ります。このような「あとで分割するのがこまる財産」については、生前贈与による節税もけっこうですが、多少の納税は覚悟の上で、みんなが使いやすい、納得できるカタチにして相続した方がいいのです。

土地に限りません。「これしかない」といった財産は、金銭的価値を超えて争いの種になりかねません。母の形見、先祖伝来の宝刀など、誰が受け取るかは金銭だけではなくプライドの問題にもなりますので要注意です。

専門家がよく言うのは「土地などわけられないものは、親子の1対1の垂直関係での共有はいいけど、兄弟といった水平関係の共有はトラブルの種」ということ。生前に決着させたい場合、あとで禍根が残らないやり方で、贈与しておきたいものです。

ヤバイ相続になりやすい相続人そのものを確定するときの手続とは

相続は、被相続人(亡くなった人)の残した財産(遺産)を相続人の間で分けることです。もめる相続の中でも、けっこう手ごわいのが、実は「相続人は誰か」ということ。多くの人は「そんなバカな、家族に決まってるだろ」と思うことでしょう。ですが、現実には誰が相続人なのかで、早くももめてしまうことがあるのです。

遺言があり家庭裁判所で検認された、または公証役場から公正証書遺言が届けられたとしても、それですんなりとはいかないのです。相続の作業はまだはじまってもいません。

財産の分与が確定するまでは、遺産はすべて相続人の共同の財産となります。共同ということは、全員の合意がなければなにもできません。たとえばこの間にも固定資産税を払う必要があるかもしれません。家屋の修理に費用がかかるかもしれません。まだ「それを誰が相続するか」が決まっていないので、こうした細々としたことも、全員で決めていかなければなりません。

では、その全員とは誰なのか。全員が揃うのか。連絡しても返事の来ない相続人はいないか。結婚前に内縁関係のあった女性との間に子どもがいた、といったことを、誰も知らなかった、といった場合もありえます。

こうした漏れを逃さないために、被相続人の戸籍謄本は生まれたときから死ぬまで、すべて集めるのが基本です。戸籍を辿っていくのです。この戸籍も、たとえば東日本大震災のような大きな災害時に焼失してしまうこともあります。法務局に保管していた副本などから再生する措置が取られましたが、もっと古い災害などによって、途中が不明になってしまう例もないとは言えません。

たとえば3人兄弟の長男は高齢ですでに亡くなっているといった場合、長男の子が長男と同じ相続の対象となります。代襲相続という制度です。もし被相続人に親も配偶者も子もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。この兄弟姉妹のうちすでに亡くなっている人がいれば、その子も代襲相続で相続人となります。

こうした場合でも、被相続人の戸籍、両親の戸籍、兄弟姉妹の戸籍が必要になります。被相続人とその両親は、出生から死亡までの全部の戸籍が必要で、兄弟姉妹は現在の戸籍が必要になります。

ですから、連絡が取れず生死不明の人がいると、面倒なことになります。一定期間、公告するなどして名乗りでるのを待ったりします。お金をかけて調査する場合もあります。亡くなっていると思われるなら、失踪宣告を受けなければなりません。

一方、相続人のはずなのに不適格として外されるケースもあります。自分の相続を有利にしようと被相続人や自分より相続順位が上または同位の人を殺害したり、殺害しようとして刑に処された人、被相続人が殺害されたことを知っていたのに、告訴も告発もしなかった人、被相続人が遺言を作成したり変更しようとしているときに、脅迫したり騙したりして妨害しようとした人、または脅迫や詐欺をはたらいて、被相続人に遺言の作成や変更をさせようとした人、遺言書を改ざんしたり、破り捨ててしまったり、隠してしまった人も相続人ではなくなってしまいます。

このように、「誰が相続人か」といった時点で、早くもつまずく例があるのです。

相続でもめる原因はさまざまだが思い込みと隠し事がこじれやすい

私たちは一緒に暮らしていても、離れていても、家族や血縁者については「お互いに気持ちはわかっている」と思って生きてきているものです。ケンカもし、反目もしながらも、「なんだかんだといっても家族じゃないか」といった言葉に象徴されるように、「話せばわかる」とか「言わなくてもわかる」と思うことで、安心していられます。

そして父や母、兄弟などに万が一、他界するような事態があったとしても、こうした絆は変わらないと思っています。そこまで心配していたら、日々、不安でしょうがないでしょう。

ですが、残念ながら大切な家族の死は、こうした曖昧なイメージをいっきに現実に引き戻します。相続は、被相続人が死亡したときからはじまります。それまでは病気だろうと寝たきりだろうと、被相続人は生きていました。それが亡くなってから、相続ははじまるのです。このことを軽く考えている人が多いようです。

被相続人がこの世からいなくなることで、現実社会に残っているのは相続人だけです。状況は一変したのです。封建主義社会ならいざしらず、いまの日本は誰もが平等であり、長男だから、末っ子だからといった決まりはありません。忘れてはならないのは、相続人にはそれぞれに家族がいたり、知り合いがいることです。

つまり相続人たちは血縁者であったとしても、そのすぐ隣に赤の他人がいるのです。私たちが情報を分析するとき、はっきり言って、全体像を的確に把握することはできません。自分の置かれた立場によって見方は変化します。また、全体を把握できない以上、置かれた立場から見える部分的なところを一番に分析し、そこから判断していくようになります。

被相続人が生きていた間は、「こうなればいい」と思っていたことが、相続がはじまったとたん、「これではダメだ」となることもしばしばです。「このままでは家族がバラバラになってしまう」とか「大切な土地がなくなってしまう」といった発想が突然、自分の責任であるかのように思い込んでいく人も多いようです。「私は被相続人から託されたのだ」と自負する人もいます。

こうした思い込みに加えて、「あれは私が貰えるはずだった」とか「被相続人と約束していた」といった過去の話を蒸し返したり、都合よく自分の判断材料に使うようになります。

各人各様の思いがじょじょに噴き出してくると、相続はもめてしまう可能性が大きくなります。亡くなったのはそれまで家族の支柱となっていた人なら、なおさらです。リーダーなき集団は、決断が下せない状況に陥ってしまいます。

さらに、被相続人が生前、相続人に隠していたことがあった場合、景色が一変してしまいます。「実は、愛人との間に子がいる」といった衝撃的な事実が遺言で明らかになったり、財産だとみんなが思っていた土地がすでに借金の担保として他人名義になっていた、といったことがわかったり……。

このように、どれだけ事前に準備を念入りにしても、人の心は変わりますし、隠し事があれば誰もが納得できなくなってしまい、もめてしまう原因となります。

この点でできるだけ生きている間に隠し事はないように整理しておきたいものですし、心の準備だけでは死後の人々の気持ちの変化には対応できないので、遺言などによって手続としてしっかりした道筋をつくっておく必要があります。場合によっては生前贈与をするなど生きている間に手を打っておきたいものです。

同性愛の夫婦にとっての遺言で思いを伝えていくための工夫とは?

いまから10年ほど前までは、同性愛のカップルが遺言を公正証書でしようと、公証役場へ行ったら「公序良俗に反するからダメだ」と言われたといったエピソードがありました。しかし、この数年で、こうした状況は大きく変わってきています。

たとえば、平成25年12月5日、民法の画期的な改正がありました。民法の法定相続分の規定には、これまで嫡出でない子(非嫡出子)の相続分について、嫡出子の相続分の2分の1にする規定があったのですが、それを削除したのです。

つまり、この改正が効力を発揮する平成25年9月5日以後の相続については、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等となったのです。法律では「嫡出でない子」とされているのは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことです。

考えてみれば、父母が法律上の婚姻関係にあるかどうかは、子どもからすれば関係のない話です。自分で選択できることではありません。生まれながらに、どうしてそんな差別を受けるのか、長く問題にされてきました。それが、ようやく、法改正になったわけです。

ただし日本ではまだ同性愛者の婚姻を法的には認めていません。それでも人生のパートナーが性別だけで決定できなくなってきているのは事実。時代の流れです。相続について配偶者の権利がしっかり法律で規定されています。でも、それはあくまで法律上の婚姻関係にある場合、または裁判では事実上の婚姻関係にある場合まで拡大して認められてきています(必ずしもではありません)。

そうなると、同性愛でもパートナーに死後、ちゃんと相続してほしいと考えるのは自然なことですし、同性愛を支援する団体に寄付したいと考えても不思議ではありません。

こうした場合も遺言が役に立ちます。公正証書遺言で、パートナーの相続分を明示しておくことができますし、特定の団体に寄付することもできます。お世話になった人に遺贈することもできます。

このときも、遺留分はありますので、誰を遺言で相続人に追加したとしても、法的に遺留分のある人たちにも一定の財産を分与することになります。この点は忘れてはならないでしょう。法定相続人に愛情があまり感じられないとしても、法律上は、相続できる立場にあるのです。

このほか、晩年、身の回りの世話をしてくれた人に特別に残すこともできますし、ペットの面倒を見る人に残すことも可能です。

私たちは自分の死後、困ったことになってほしくない人たちに対して、責任があります。そうした人たちが、自分の死の悲しみ以上の悲しみを背負うことのないように、生きている間にしっかり対応をしておくこと。それが、現代にとって、愛情の一つの表現にもなるのです。

寝たきりになってしまった父が遺言を書きたいと言い出したとき

Aさんから連絡を受けました。「今年86歳になる私の父がとうとう寝たきりになりました。これまでは頑固で強気だったのに、急に弱気になってきて、遺言を書くと言い出しました。どうすればいいでしょうか」

遺言はいくつ書いてもかまいませんが、どれも遺言であることが認められた場合、最新の日付のものが有効となります。つまり亡くなる時点から見て、直近の遺言です。あとから古い遺言を持ち出しても、相続が混乱するだけですし、亡くなった人の意思は亡くなる直前に変わったわけですから、その決定を尊重することになります。

Aさんは3人兄弟の二男で、長男はアメリカに長期赴任中。三男は実家に寄りつかず、事実上、Aさんが入院や検査やリハビリに付き添い、施設の手配などもしてきました。そこで、父親がそんなAさんのことをほかの2人とは別の扱いをしたいと考えたとしても不思議ではないでしょう。

このままでは、父の介護ではなんにもしていない長男、三男にもAさんと平等に分けることになります。父の妻、Aさんから見れば母親はすでにおりませんから、3人で3等分です。父親としては、それはおかしい、と思ったのでしょう。また、すでに長男にはマンション購入費用の一部を援助していましたし、三男の借金を肩代わりしたこともあるのです。

だからといって、寝たきりの父親の遺言を、Aさんが代筆してはいけません。そんな遺言は認められませんし、トラブルの元です。

この場合、正しい方法は、公証役場に相談し、公証人に出張してもらい、口述で遺言をすることです。Aさんには、その手配をするようにアドバイスしました。

公証人は、裁判官などの法律実務に長年携わってきた人たちですから、法律の専門家です。正確な法律知識があり、しかも経験も豊富。複雑な内容だとしても、法律的にしっかりとした文面の遺言として完成させてくれます。相談しながら、よりよい遺言にしていきます。

こうして作り上げた公正証書遺言は、法的な不備で無効になるおそれはゼロです。現在、もっとも安全確実な遺言方法と言われています。

公正証書遺言の作成には、2人の証人が必要となります。この手配も相談に乗ってくれます。交通費、謝礼で証人も探すことができます。公証人には法律上の守秘義務があります。公証人を補助する書記も同様。証人も法律上、秘密を守らなければ訴えられる可能性があります。

なお未成年者、配偶者、直系血族のほか相続人になる可能性のある人も、証人にはなれません。利害関係者は証人になれないのです。では、どういう人がいいのか。この場合、Aさんの父親の友人がいるのならその人に頼むといいでしょう。

こうして公正証書遺言になれば、あとから長男や三男が「Aが、自分の都合のいいように遺言を書かせた」と主張することは困難になります。むしろ、生前に贈与を受けていたり、借金の肩代わりをしてもらった金額は、相続額から引かれて当然、ということになると思います。

もちろん、長男、三男にも遺留分を主張できますので、相続をゼロにすることは難しいかもしれませんが、公証人はその点も踏まえた遺言にするようにアドバイスしているはずですから、もめる芽はかなり摘むことがきるのです。

遺言でかえってもめるんじゃないかと思っている人のための注意点

「遺言をしっかり書いておけばもう安心」と思うかもしれません。ですが、実際はそうではありません。そのせいか、「遺言なんて下手に残すとかえってもめる」とおっしゃる人もいます。

ですが、それは遺言のことをよく知らず、もめる遺言を書いてしまうからです。遺言人は「なんとしてでもこうしたい」という気持ちにかられて、遺言を書きます。ところが、相続人との間でまったく話し合いがされていない、または、複数の相続人がいるのに、ごく一部の相続人としか相談していない場合、そのような状況がもめる原因となっていきます。外された、と感じた他の相続人たちは、遺言書の重箱の隅を突っつくようにして、不備を見つけて、遺言を無効にしようと思うかもしれません。

もっとも、「そんなにたくさん相続人はいないし、ちゃんと話し合ってるから、遺言もいらない」としてしまうのも危険です。遺言人が生きている間は仲の良い相続人たちも、亡くなったあとにどうなるかは、誰にもわからないのです。「言った、言わない」でもめるのも、こうしたケースが多いのです。

遺言が有効でも、その内容によっては遺言通りに執行されない場合もあります。裁判によって決着することが多くなるでしょうが、争いになるのは、たとえば生前にすでに贈与されている部分であるとか、生前に遺言人に尽くした度合いであるとか、偏りすぎた相続について、遺留分を請求するといったことが生じます。

遺留分とは、相続人によって法的に相続できる最低限の分と考えてればわかりやすいでしょう。相続人である子が2人いたら、単純に財産は半々に分けるはず。しかし遺言によって「長男に全部」と指定されていたとしましょう。次男はおもしろくないですよね。遺言人である父親が生きている間は「しょうがない」と思っていても、亡くなってしまえば、なんだか悔しいし理不尽です。「訴えよう」と考えてもおかしくありません。

ちなみに、遺留分を主張できるのは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人です。しかもこの遺留分は、かなり大きいのです。法律では、 直系尊属のみが相続人の場合については、被相続人(亡くなった人)の財産の3分の1です。それ以外のとき、財産の2分の1です。

直系尊属とは、系譜で書けばいわばタテの関係です。父母・祖父母・曽祖父母と自分、という関係です。ですから、被相続人の子しか相続人がいない、といった場合です。被相続人に妻がいれば、それ以外の場合になります。

たとえば、遺言で「財産は全額寄付します」とあったとしても、遺留分は請求できるわけです。妻と子がいる場合なら、財産の2分の1までは取り戻せる可能性があります。それを妻と子で分けることになります。

このような手間をなくす、もめ事をなくすためには、「全額寄付」といった極端な遺言をつくる場合は、当事者としっかり意思疎通をしておくべきでしょう。出し抜けに死後にそれがわかる、というのはあまりよくないやり方です。

遺言で重要なのは、遺族を驚かせることではなく、生前に話していた通りの考えを書面ではっきりさせて、相続がもめないようにすることです。

遺言のない場合は、法律で決められている法定相続となります。相続人が配偶者と被相続人の子供だけのときは、配偶者は2分の1、子供も2分の1です。相続人が配偶者と被相続人の父母の場合は、配偶者は3分の2、父母は3分の1です。相続人が配偶者と被相続人の兄弟の場合、配偶者4分の3、兄弟4分の1となります。それぞれ2人以上いるときは、原則としてその中で均等に分けます。これが原則です。

遺言の書き方とどの程度まで役に立つのかをはっきりさせておこう

遺言に書いておけば、思い通りの相続ができるのではないか。そう思っている方も多いと思います。半分は当たっています。でも、残り半分がありますので、そこはちゃんと確認しておきましょう。

遺言として認められるためには、遺言書の封を切らずに家庭裁判所に届けて検認を受けなければなりません。書いたままでも役に立ちませんし、そもそも発見されなければ意味がありません。

遺言書を保管していた相続人、発見した相続人は、遺言者が死亡したらできるだけ早くその遺言書を家庭裁判所に提出しなくてはなりません。そして「検認」を請求します。これによって、遺言書として認められるのです。

封印されている遺言書は、勝手に開いてはいけません。家庭裁判所で相続人やその代理人などの立ち会いの上で開封しなければならないのです。これは封筒とその中身が一致していることを公的に認める作業ですから、とても重要です。

検認は、相続人全員に遺言が残されていたこと、どういう内容かを知らせることも含まれます。遺言書が、遺言者の死後に偽造・変造されることを防止するために必要なのです。ただし、遺言が有効・無効かは検認では決定されません。そこで争いになれば裁判で有効か無効かを決着することになります。

ただし、公正証書による遺言については、公証役場で預かっていることもあって、検認は不要ですぐに遺言書として認められます。

遺言は法律で、すべて遺言者が自筆で書くことになっています。日付を入れて、相続したい物件や現金を具体的に記入します。たとえば土地ならその登記簿に記されている正確な地番を記入します。現金や有価証券は、それが保管されている銀行の口座番号、証券会社の口座番号まで記入しておくこと。物品の場合も、品名と保管場所を明示しないと、あとでもめることになります。

そしてそれを、誰に相続させるのか。その「誰」も具体的に書いてください。できれば住民票の住所、本籍地などまで書いて、性格な氏名を記入したいところです。

書いていて、訂正・修正をしたい場合は、必ず遺言の修正方法に則って記入してください。法律で定められている修正方法があるのです。これがとってもややこしいのですが簡単にまとめると次のようになります。

欄外又は末尾の余白のところに「第1項」とか、「3行目」とか、訂正の場所を指定して、変更したとはっきり書いて署名します。変更部分は2重線などで消しますが、下の字が読めるように消すこと。そこに押印をしておくこと。欄外や末尾には「6行目削除14字 加入12文字 氏名」というように書いておくわけです。

また、遺言には日付と印も必要です。日付はできれば文面の末尾などに入れてください。印は指定されていませんので、ご自身のものであればなんでもかまいません。

この自筆の遺言が、遺言書の基本となります。

公正証書による遺言は、公証役場に頼み公証人に書いてもらいます。この利点は公証役場が預かってくれるので紛失がありませんし、家裁の検認も不要。また口述筆記となりますので、自分で書くことのできない人でも遺言が残せることにあります。費用はかかりますが、こうした点から、いまでは公正証書遺言をすることを推奨する声が多いのです。

相続や遺言で頼りになる専門家たちとなにをどう依頼すればいい?

たとえば金田一耕助シリーズの『犬神家の一族』のように、冒頭で弁護士が遺言を遺族に読み上げるシーンがあったりします。そこには驚愕の内容があり、その結果、つぎつぎと事件が起こる……なんてことになります。

ちょっと面倒そうな手続は、すぐに弁護士、という発想をお持ちの人もおられると思いますが、相続、遺言に関して活躍する専門家は、弁護士だけではありません。

税理士、司法書士、行政書士、公証人、家庭裁判所といった法律に関係している専門家に加えて、銀行、信託銀行、生命保険会社も窓口を設けていたりします。

相続税については税理士がもっとも詳しく、税に関するアドバイスや手続は法律で税理士資格が必要です。ただし税理士も専門分野があり、相続に不得手な人もいますので、誰でもいいということではありません。

司法書士は遺産分割などによって登記の名義変更をすることができます。法律で登記関係の実務を本人に代わってするためには司法書士資格が必要です。

行政書士は、書類の専門家。つまり遺言の書き方をアドバイスしたり、相続についても事実関係の確認(相続人の確定に必要な戸籍の収集など)、事実関係の証明(遺産分割協議書の作成)などを担当できます。相続や遺言を専門にしている人が多いのも特徴です。ただし上記の業務は単独ではできませんので、提携している税理士、司法書士と組んで対応しています。

弁護士、税理士、司法書士、行政書士は横のつながりもありますので、どの士業に頼んでも相続に詳しい人なら、チームで対応してくれることが期待できます。

公証人は公証役場にいて、遺言を公正証書にしてくれます。病床で動けない人のために出張もしてくれます。ただし相続全般についてのアドバイスなどは不得意です。

家庭裁判所は、遺言の正当性を認めるほか、揉めた場合の対応をしてくれます。

銀行、信託銀行はお金を預かる立場から、相続のアドバイスをしてくれます。上記のような専門家を紹介してくれるところもあるようです。生保も専門家と組みながら相続に便利な金融商品の開発をしつつ、相談窓口を設けている例もあります。

このように、相続と遺言にまつわるアドバイス、相談、そして代行してくれる人は多岐にわたっており、誰に最初に相談するかで迷うことも多いのではないかと思います。

どの専門家も、大切なのは実績です。相続は人それぞれなので、多数の事例を扱っている人や、そうした事例に接することができる人のほうが、私たちの役に立ってくれることは間違いありません。

友人・知人でこうした専門家がいる場合でも、必ず実績重視で数人に会ってみて、自分の考えと合う人に絞り込んでお願いするのがいいでしょう。

また、相続・遺言に限りませんが、専門家を活用するには、任せきりにしないことです。こっちも学びながら、きちんと言いたいことを言って、一緒に取り組むぐらいの姿勢が望ましいのです。

「失敗した」とか「こんなはずでは」という声の多くは、任せっきりにしていた人から出ています。迷ったときはセカンド・オピニオンも求めていくぐらいの気持ちでちょうどいいのです。

きちんと制度を知っていれば回避できるトラブルも多いのです

相続で生じるトラブルの中には、きちんと制度をしっていれば回避できるものも多いのです。みなさんは、いかがですか? 相続や遺言の知識をお持ちでしょうか?

「私だって貰えたはずなのに」といった思いを抱く人がいます。「私は、もっと多く貰えたはずだ」と主張する人もいます。「いや、自分だけがすべて受け継げるはずだったのだ、そういう約束だった」と主張する人もいます。「この家だけは売れない。ほかの財産でがまんしろ」と言えば「独り占めは許さない」とトラブルになる……。

漠然と、なんの知識もなく「貰えるんだよね」とか「これとこれは自分のものだ」といった思い込みを長年抱えていると、いざというときに、それがうまくいかないと知って、憤るだけではなく、「なんとか思い通りにならないか」と画策するようになるのです。

これによってトラブルはさらに深まり、遺族の間にさまざまなシコリを残すことになってしまうこともあるのです。

進取の気性を持ち、アイデアマンで、いろいろと商標登録をして地道に商売を広げていた弟がいました。ところが父親はその兄に商売全部を相続させるつもりでいました。父親の考えでは、長男がすべてを相続すればいまの事業をバラバラにすることなく継続できるはずだ、そして弟は商標などの権利を持っているのだから、兄と協力することで兄弟仲良く商売を続けていくはずだ、と考えたようです。

結果はまったく違うことになりました。弟は自分の相続の権利を主張し、親の事業によって築かれた土地家屋の分割を迫りました。兄は売り払って分割するのは嫌だったので金銭で対応しました。その結果、事業そのものも事実上、弟が全権を持ち、兄は相続分の金銭だけで追い出されてしまったのです。

兄弟仲良くどころか、むしろ溝が深くなり、以後、この兄弟は同じような商売をまったく別々に展開していくことになります。同時に、さまざまな権利をはっきりさせるための訴訟まで起こして、対立を決定的にします。おそらく、一生、和解はないのではないか、と思えるほどの対立です。

これによって亡くなった父親が築いた事業はそのままでは継続されず、縮小されてバラバラになってしまいました。願いとは逆の結果になってしまったのです。

もう少ししっかりと相続についての知識を持っていれば、ここまでこじれることなく、対応できたのではないか。そんな気がしてなりません。

「そんな事業や、財産は持ってないから平気だ」とおっしゃる人もいます。でも、実は小さなマイホームを奪い合うために兄弟が激しく争うことも珍しくないのです。財産が少ないほど、相続人にとっての価値は高まります。「これ以上、分けることはできない」のですから、どちらかが相続し、どちらかは相続できない事態になりかねません。

こうした事態になることは家族構成を見れば一目瞭然なのですから、生前にいろいろ手が打てたはずです。それを怠ることで問題を深くしてしまいます。相続をはっきりさせないで亡くなってもらったほうが得だ、と考える家族もいるので、本当に根が深いものです。

「この際、ちゃんとやろう」と思っても、「縁起でもない」とか「やめてくれ」と訴える家族が出てきたりするのです。はっきりさせると、自分が不利になるのではないか。そんな疑心暗鬼もあるでしょう。

このように、制度と心の問題が複雑に絡まってしまうことで相続は大きなもめ事になりやすいのです。でも「もめ事が嫌い」だからといって、なにもしない、というのはいかにも無責任。生きている間にやっておくことで、残された人たちがとても楽になることもあるのです。

高齢化と少子化が進み相続に対する関心がむしろ高まっています

昔のことになりますが、「会ったこともない遠い親戚から巨額の遺産を相続した若者」といったシチュエーションのお話がよくあったものです。または、祖父母からの遺産を受け取った若者など、とにかく相続で受け取るのは若い人たち、というイメージが長くあったのです。

ところが、いまの日本ではまったく違うのです。高齢化社会となって、財産を残す人が90歳ぐらいまで長生きし、相続がはじまるのは、相続人であるお子さんが70代であったりすることも珍しくありません。相続人にすでに孫がいる、といったケースがあります。

こうしたことによって、相続で問題になることがいくつか出てきました。相続人をはっきりさせたいのですが、たとえば愛人のところに子どもがいたはず、というのを生涯隠していた場合、関係者が全員高齢になっていることなどから、探してもなかなか見つからない可能性が生じます。

このようなドラマチックな場合でなくても、何回か離婚して実子がどこかにいる、というのがそもそも見つけられない。やっと発見してもすでに亡くなっていて、その家族を探し出すことも困難になっていく……。

ご存じにように、「誰が相続人か」をはっきりさせない限り、きちんと滞りなく相続は完成しません。「集まった人たちだけで適当に分ける」なんてことはできないのです。

相続人たちも高齢になり、こうした調査をしたり、昔の記録を探す、記憶をたどることが困難になってくると、ますます全容が不確かになってしまいます。

相続人だけではなく、相続財産をはっきりさせなければなりませんが、亡くなる前に当人にいくら尋ねてもはっきりしないまま、ということもあり得ます。どこに財産があるのか。またはどこに借金があるのか。それがわからない限り、相続は完成しません。

このように高齢化によって相続をめぐる問題も多様になってきました。

また、少子化も影響してきています。相続人が相続の発生する以前に亡くなっているときに、相続人の直系の子がいれば、その子に相続の権限があります。ところが少子化でそこにも相続人がいないかもしれません。

亡くなるかなり前に、頭がはっきりしているうちにと書いた遺言に記された通りの相続は困難になってしまうかもしれないのです。

相続人のいない相続では、なんにもしないと国庫に収納されてしまいますから、亡くなる前によく考えて、遺言で寄付先をきちんと示すなどしておく必要があります。

このように、高齢化、少子化によっていま、相続と遺言についての関心がとても高まっていると言えます。これは、他人事ではなく、ご自身の問題でもあるのですから、ぜひ、基本的な知識だけでも身につけておき、しっかり考えを持つようにしたいものです。

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