「遺言をしっかり書いておけばもう安心」と思うかもしれません。ですが、実際はそうではありません。そのせいか、「遺言なんて下手に残すとかえってもめる」とおっしゃる人もいます。

ですが、それは遺言のことをよく知らず、もめる遺言を書いてしまうからです。遺言人は「なんとしてでもこうしたい」という気持ちにかられて、遺言を書きます。ところが、相続人との間でまったく話し合いがされていない、または、複数の相続人がいるのに、ごく一部の相続人としか相談していない場合、そのような状況がもめる原因となっていきます。外された、と感じた他の相続人たちは、遺言書の重箱の隅を突っつくようにして、不備を見つけて、遺言を無効にしようと思うかもしれません。

もっとも、「そんなにたくさん相続人はいないし、ちゃんと話し合ってるから、遺言もいらない」としてしまうのも危険です。遺言人が生きている間は仲の良い相続人たちも、亡くなったあとにどうなるかは、誰にもわからないのです。「言った、言わない」でもめるのも、こうしたケースが多いのです。

遺言が有効でも、その内容によっては遺言通りに執行されない場合もあります。裁判によって決着することが多くなるでしょうが、争いになるのは、たとえば生前にすでに贈与されている部分であるとか、生前に遺言人に尽くした度合いであるとか、偏りすぎた相続について、遺留分を請求するといったことが生じます。

遺留分とは、相続人によって法的に相続できる最低限の分と考えてればわかりやすいでしょう。相続人である子が2人いたら、単純に財産は半々に分けるはず。しかし遺言によって「長男に全部」と指定されていたとしましょう。次男はおもしろくないですよね。遺言人である父親が生きている間は「しょうがない」と思っていても、亡くなってしまえば、なんだか悔しいし理不尽です。「訴えよう」と考えてもおかしくありません。

ちなみに、遺留分を主張できるのは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人です。しかもこの遺留分は、かなり大きいのです。法律では、 直系尊属のみが相続人の場合については、被相続人(亡くなった人)の財産の3分の1です。それ以外のとき、財産の2分の1です。

直系尊属とは、系譜で書けばいわばタテの関係です。父母・祖父母・曽祖父母と自分、という関係です。ですから、被相続人の子しか相続人がいない、といった場合です。被相続人に妻がいれば、それ以外の場合になります。

たとえば、遺言で「財産は全額寄付します」とあったとしても、遺留分は請求できるわけです。妻と子がいる場合なら、財産の2分の1までは取り戻せる可能性があります。それを妻と子で分けることになります。

このような手間をなくす、もめ事をなくすためには、「全額寄付」といった極端な遺言をつくる場合は、当事者としっかり意思疎通をしておくべきでしょう。出し抜けに死後にそれがわかる、というのはあまりよくないやり方です。

遺言で重要なのは、遺族を驚かせることではなく、生前に話していた通りの考えを書面ではっきりさせて、相続がもめないようにすることです。

遺言のない場合は、法律で決められている法定相続となります。相続人が配偶者と被相続人の子供だけのときは、配偶者は2分の1、子供も2分の1です。相続人が配偶者と被相続人の父母の場合は、配偶者は3分の2、父母は3分の1です。相続人が配偶者と被相続人の兄弟の場合、配偶者4分の3、兄弟4分の1となります。それぞれ2人以上いるときは、原則としてその中で均等に分けます。これが原則です。