相続は、被相続人(亡くなった人)の残した財産(遺産)を相続人の間で分けることです。もめる相続の中でも、けっこう手ごわいのが、実は「相続人は誰か」ということ。多くの人は「そんなバカな、家族に決まってるだろ」と思うことでしょう。ですが、現実には誰が相続人なのかで、早くももめてしまうことがあるのです。

遺言があり家庭裁判所で検認された、または公証役場から公正証書遺言が届けられたとしても、それですんなりとはいかないのです。相続の作業はまだはじまってもいません。

財産の分与が確定するまでは、遺産はすべて相続人の共同の財産となります。共同ということは、全員の合意がなければなにもできません。たとえばこの間にも固定資産税を払う必要があるかもしれません。家屋の修理に費用がかかるかもしれません。まだ「それを誰が相続するか」が決まっていないので、こうした細々としたことも、全員で決めていかなければなりません。

では、その全員とは誰なのか。全員が揃うのか。連絡しても返事の来ない相続人はいないか。結婚前に内縁関係のあった女性との間に子どもがいた、といったことを、誰も知らなかった、といった場合もありえます。

こうした漏れを逃さないために、被相続人の戸籍謄本は生まれたときから死ぬまで、すべて集めるのが基本です。戸籍を辿っていくのです。この戸籍も、たとえば東日本大震災のような大きな災害時に焼失してしまうこともあります。法務局に保管していた副本などから再生する措置が取られましたが、もっと古い災害などによって、途中が不明になってしまう例もないとは言えません。

たとえば3人兄弟の長男は高齢ですでに亡くなっているといった場合、長男の子が長男と同じ相続の対象となります。代襲相続という制度です。もし被相続人に親も配偶者も子もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。この兄弟姉妹のうちすでに亡くなっている人がいれば、その子も代襲相続で相続人となります。

こうした場合でも、被相続人の戸籍、両親の戸籍、兄弟姉妹の戸籍が必要になります。被相続人とその両親は、出生から死亡までの全部の戸籍が必要で、兄弟姉妹は現在の戸籍が必要になります。

ですから、連絡が取れず生死不明の人がいると、面倒なことになります。一定期間、公告するなどして名乗りでるのを待ったりします。お金をかけて調査する場合もあります。亡くなっていると思われるなら、失踪宣告を受けなければなりません。

一方、相続人のはずなのに不適格として外されるケースもあります。自分の相続を有利にしようと被相続人や自分より相続順位が上または同位の人を殺害したり、殺害しようとして刑に処された人、被相続人が殺害されたことを知っていたのに、告訴も告発もしなかった人、被相続人が遺言を作成したり変更しようとしているときに、脅迫したり騙したりして妨害しようとした人、または脅迫や詐欺をはたらいて、被相続人に遺言の作成や変更をさせようとした人、遺言書を改ざんしたり、破り捨ててしまったり、隠してしまった人も相続人ではなくなってしまいます。

このように、「誰が相続人か」といった時点で、早くもつまずく例があるのです。