相続で生じるトラブルの中には、きちんと制度をしっていれば回避できるものも多いのです。みなさんは、いかがですか? 相続や遺言の知識をお持ちでしょうか?

「私だって貰えたはずなのに」といった思いを抱く人がいます。「私は、もっと多く貰えたはずだ」と主張する人もいます。「いや、自分だけがすべて受け継げるはずだったのだ、そういう約束だった」と主張する人もいます。「この家だけは売れない。ほかの財産でがまんしろ」と言えば「独り占めは許さない」とトラブルになる……。

漠然と、なんの知識もなく「貰えるんだよね」とか「これとこれは自分のものだ」といった思い込みを長年抱えていると、いざというときに、それがうまくいかないと知って、憤るだけではなく、「なんとか思い通りにならないか」と画策するようになるのです。

これによってトラブルはさらに深まり、遺族の間にさまざまなシコリを残すことになってしまうこともあるのです。

進取の気性を持ち、アイデアマンで、いろいろと商標登録をして地道に商売を広げていた弟がいました。ところが父親はその兄に商売全部を相続させるつもりでいました。父親の考えでは、長男がすべてを相続すればいまの事業をバラバラにすることなく継続できるはずだ、そして弟は商標などの権利を持っているのだから、兄と協力することで兄弟仲良く商売を続けていくはずだ、と考えたようです。

結果はまったく違うことになりました。弟は自分の相続の権利を主張し、親の事業によって築かれた土地家屋の分割を迫りました。兄は売り払って分割するのは嫌だったので金銭で対応しました。その結果、事業そのものも事実上、弟が全権を持ち、兄は相続分の金銭だけで追い出されてしまったのです。

兄弟仲良くどころか、むしろ溝が深くなり、以後、この兄弟は同じような商売をまったく別々に展開していくことになります。同時に、さまざまな権利をはっきりさせるための訴訟まで起こして、対立を決定的にします。おそらく、一生、和解はないのではないか、と思えるほどの対立です。

これによって亡くなった父親が築いた事業はそのままでは継続されず、縮小されてバラバラになってしまいました。願いとは逆の結果になってしまったのです。

もう少ししっかりと相続についての知識を持っていれば、ここまでこじれることなく、対応できたのではないか。そんな気がしてなりません。

「そんな事業や、財産は持ってないから平気だ」とおっしゃる人もいます。でも、実は小さなマイホームを奪い合うために兄弟が激しく争うことも珍しくないのです。財産が少ないほど、相続人にとっての価値は高まります。「これ以上、分けることはできない」のですから、どちらかが相続し、どちらかは相続できない事態になりかねません。

こうした事態になることは家族構成を見れば一目瞭然なのですから、生前にいろいろ手が打てたはずです。それを怠ることで問題を深くしてしまいます。相続をはっきりさせないで亡くなってもらったほうが得だ、と考える家族もいるので、本当に根が深いものです。

「この際、ちゃんとやろう」と思っても、「縁起でもない」とか「やめてくれ」と訴える家族が出てきたりするのです。はっきりさせると、自分が不利になるのではないか。そんな疑心暗鬼もあるでしょう。

このように、制度と心の問題が複雑に絡まってしまうことで相続は大きなもめ事になりやすいのです。でも「もめ事が嫌い」だからといって、なにもしない、というのはいかにも無責任。生きている間にやっておくことで、残された人たちがとても楽になることもあるのです。